ニューアルバム「かわらぬ波」を語る! 石川秀明ロングインタビュー (1)


--- 今日は久しぶりにいしかわさんに来ていただきました。よろしくお願いします。
石川: ホントにご無沙汰してました。こんなラフな格好ですいません。

--- (笑)パジャマ、ですよね? ま、でも、ホームページですから、文章だけですので。
石川: とか言いながら画像出るんですよね? まあ、いいか(笑)。よろしくお願いします。

--- 早速ですけど、5年ぶりのアルバムということで、まずは全体的な話からお願いします。
石川: はいはい。そうですね、前のアルバムが2004年で、2005年あたりでなんか作りたいな、とずーっと思っていたんですけど、なかなかまとまった時間が取れなくて、後回しにしてたんですよね。やっぱりライブだしな、みたいなところもあったし、何しろその4枚めの在庫が結構あったから(笑)。これ売ってからだよなあ、と思っていたらASHがお休みしたり、ガル師匠が卒業したり。まあいろいろあって、ひとりでライブをやってるうちに、ちょっとここらへんでひとつ形にしておきたいな、と思ったのが今回です。

--- なるほど。タイミングが合わなくて、ここまできちゃった、って感じなんですね?
石川: そうそう。一応ね、毎年といかなくても、2年とかに1枚くらいはできるくらいの新曲は作っているわけですからね。とはいえ、やっぱりブラバの終わりあたりは、そんなに新しい曲は書いてなかったですけど。あ、その頃書いた曲は、結局BT (Blues Therapy: Dr.ASHと組んだ新バンド)でやってるか。だから、その狭間で作った曲たちは、行き場がなくなっていたから、やっぱり可愛い我が子なんでね(笑)。形にしておきたいな、と。

--- そうなんですねー。で、それってやっぱり弾き語りの「ひとりぶらば旅」との関連とかはあるんですか?
石川: もちろんありますよ。っていうか、それが今回アルバムにしようとしたきっかけかもしれないです。というのも、結局ブラバとしては「Drive Drive Drive」が最後のアルバムなわけですよね? で、今はBTをやってるから、これからCDを作るとしても、やっぱりBTで出すのが自然だと思うんですよ。でも、その間はどうしていたか、というと、この2年くらいソロでいろんなとこで演奏して歌を歌ってってやっていたわけで、その事実は揺るぎないし、当然そこで得たことというか、感じたこととかがたくさんあるんですよね。その足跡を今のうちに形にしておくのは、結構大事なんじゃないかな、と思ったのもあります。だから、曲があったことと、ひとりで演ってたことの両方が今回のアルバム作りのスタートなのかな、って思いますよ。このあとは、どう考えてもBTを中心に物事が回っていくだろうし、曲もBTでやるから、っていう前提で作られると思うので、そうすると、トリオのロックバンドでやりたい曲ってなっちゃうしね。

--- それってやっぱり大きく違うものなんですか?
石川: もちろんね、違わない部分はあると思うんですよ。でも、やっぱり違うかな。気持ちが違うよね。実はBTをやりだすときに、すごく解放された部分っていうのが、ロック調の8ビートな曲をやれる!って思ったとこなんですよね。ブラバって世間からみると、何でもありの自由なバンドだったという印象があるかもしれないけど、作る側からすると、無意識に自分のなかでやっぱり縛りを入れてたのかもしれなくて、その縛りから外れる曲は、自然とボツになってたりとか、そもそも作ってなかったんですよ。そこが解放されて、ちょっと自由だな、と思ったんですよね。だから今のほうが楽です。

--- 赤裸裸ですね(笑)。でも、それで失ったものもあるのでは?
石川: そうですねえ。。。アコースティックで私小説的なスタンスの曲はやりにくくなったかもしれないです。つぶやくような感じの曲とかね。それって、アコースティックならでは、だから。あ、でも、BTでアコースティックライブとかをやることもあるから、そういうときならできるかもなあ。まあ、でも、やっぱりちょっと違うんですよね、ブラバとBTでは。やりたいことの方向性がね。

--- そういう意味では、今回のは、ブラバで持ってた、そのアコースティックならでは、の部分が中心になってるんですよね?
石川: そうですね。だから、BT名義ではないんです。かといって、解散したブラバ名義というのも変なので、個人名義にしたんです。「ひとりぶらば旅」も、前はブラバの名前でやってたんですけど、今は個人名義に変えたんですよ。僕もひとり立ちしようと思って(笑)。

--- (笑)今まではひとり立ちしてなかったんですか?
石川: どこかにバンド名を隠れ蓑にしてるとこは、多分誰でもあるんじゃないですかね?(笑)責任取りたくない、照れくさい、みたいな。

--- (笑)照れくさい、って。
石川: (笑)なんかね、自分の名前ががつんと出るのってね。照れくさくないです?

--- まあ、確かに。でも、そういう立場なんだし、ミュージシャンとかって。
石川: まあねー。でもね、そういう意味でも、心機一転というか、原点回帰というか、石川秀明というひとりの音楽をやる人に立ち返ってみよう、みたいな、そういうのはありますよ。大げさなものではないですけど、もう一度、自分自身を見つめてみようかな、というのとかね。

--- なるほど。ある意味節目ですか? オフィス奇兵隊も10年だし。
石川: あ、そうですね。浜松に住んでから10年になったし、ブラバって浜松来てからなんですよね。だから、ちょっと今までのまとめじゃないけど、総括的な意味もあるかもしれないですね。そういうのって、意識してやってるよりは、なんかそういう気分になって、みたいな感じなので、あとで取ってつけたような感じがしてしまうんですけど(笑)。

--- (笑)衝動的にやる、みたいな感じですか?
石川: 近いですよね。だって、今回のレコーディング、実質1日ですからね。思いついたが吉日、みたいな感じで。あ、録ろう、みたいな。あのカシオペアだって、2日とかかけるのに(笑)。

--- (笑)それはまた早いですね。今回は全部ひとりで演奏してるんですよね?
石川: そうですね。全部自宅のスタジオ(Studio奇兵隊)です。基本はクリックを聴きながらギターを録音して、それを聴きながら歌を入れて、最後にギターソロとかオブリを入れて、って感じで。ドラムを打ち込みでやってもよかったんだけど、それだとバンドでやるのと変わらないし、打ち込みに時間かかるんでね(笑)。BTでドラムのだてっち(田中舘祐介)が、人間ならではのドラムを叩いてくれてて、それを聴いてると、なんか打ち込みでやるのがもったいないというか、つまんない、というか(笑)。それよりは、ギター1本で出てくるノリをベースにしたほうがいいかな、って思ったんですよね。だから、ほとんどの曲が3トラックで、3回とおして演奏して、歌って、って感じで、ほぼ一発です。

--- なるほど。この手法って、ブラバのアルバムでいうと、1枚めの「ここぞとばかりに」と同じですよね?
石川: そうなんですよ。だから、そういう意味でも原点回帰なんです。で、1発だと、どうしてもミスとかね、あるんですけど、そういうのも、全体的に勢いがあるなら、まあいいか、みたいな判断基準で、よほど大きな間違いとか、リズムずれとかしてなかったら、ちょっと外してても最初のテイクでOKにしてます。

--- もっと作り込もう、というのはなかったんですか?
石川: 昔はそういうとこを大事にしてたんですよね。ライブは一期一会だけど、CDは繰り返し聴くものだから、やっぱり最低限のクオリティーというか、繰り返し聴くのに耐えうる仕様にしなきゃ、って思ってたんですよね。でも、友達のバンドのライブ録音の音源とか、よく聴くんですけど、意外とそういう細かいとこ気にしてなくて、それよりも雰囲気とか、そこに込められた気持ちとか、そういうののほうが要素として大きいな、と最近思ったんですよ。だからと言って手抜きをするのではなくて、もちろん、作り込むことも大事なんだけど、それ以上に、今回は1発の気合いというか、そういうのをパッケージにできるかな、っていう意図があって、敢えてそうした、というのもあります。自分には過酷なんですけどね(笑)。

--- そうですよね。あとまで残るし、あれ、ヘタ?みたいに思われたりとかってイヤですよね?
石川: ね、イヤだー(笑)。まあでも、それが実力だからな、って思うとこもあるし、背伸びしないで、客観的に評価してもらえればいいと思いますけどね。あ、石川ピッチ低い、みたいな(笑)。

--- (笑)潔いですね。なかなかそこまで思えないですよね。
石川: なんかね、もうあまり他人の評価をもろに気にすることはなくなりました。無視してるわけではないけど、全部客観的に観れるというか、傷つかない術を知った、というか。もし叩かれたら、その中で、自分と共感ができるプラスの部分だけを抽出して自分のものにして、あとは感情に結びつけないで事実として捉えることにしたんですよ。そういう意味では成長しましたよ(笑)。

--- なるほどね。深いですね。あと、音作りの部分はどうですか?
石川: 今回の方向性は、弾き語りを1本のマイクで録音したようなサウンドにしたいな、というのと、あまり新しくなくて、ちょっと古くさい録音に聴こえるといいかな、というのがありました。ちょっとローファイで、歪んだりノイズが入ったりしてるんだけど、生々しい感じが録れればな、と思って、いろいろやってみました。

--- 使ってる機材とかはどんな感じですか?
石川: 録音で使ってるのは、ヤマハのn12というレコーディング用ミキサーで、ソフトはCubase 4です。前のはMTRだったんで、作業効率は格段によくなりましたよ。で、ギターはヤマハのAEX-1500 (フルアコ)をAG-Stompに入れてn12に立ち上げてます。歌は、コンデンサーマイクとダイナミックマイクを両方試して、結局ダイナミックマイクの方を採用しました。コンデンサーマイクだと、音が良すぎてちょっと処理に困ってしまって。あと、ボーカルのダイナミクスを大きくつけ過ぎちゃうので、歪んでしまうんですよ。エンジニアの人と作業してたらお任せできるんですけど、ひとりだし、サビと平歌の別録りとかはやりたくなかったし、そのマイク1本な雰囲気が結構近かったのもあって、敢えて音が悪いほうに(笑)。

--- しかも、今回って全部の音がセンターですよね? それはそのマイク1本で録った、っていうコンセプトからですか?
石川: お、よく気がつきましたね(笑)。そうなんです。だから、パンを一切振ってないです。モノラルに近いステレオ。リバーブ成分があるので、ちょっと広がってますけど、定位は全部センターなんですよね。

--- 最近だと、サニーデイの曽我部さんがやってましたよね?
石川: あ、そうでしたね。意外といいですよね、センターのみって。変に左右に分けても、なんか違和感あるんですよね、こんなに少ない音だと。

--- マスタリングもCubase 4ですか?
石川: そうですね。T-Racks3っていうプラグインで最終的な音を作っています。普通だと、レベル稼ぎに使うんだけど、今回はビンテージのコンプとかEQのシミュレートが入ってるので、その質感だけを利用してます。音作りもあんまり凝らないで、できるだけ録音した音をそのままミックスして、っていう感じにしたので、ちょっと低音のとことか処理が甘いんですけど、それもマイク1本の空気感、っていうところで。ってここまで言うと、言い訳がましいですね(笑)。

--- (笑)言い方次第ですね?
石川: (笑)そうです。言い方次第。意図があれば何でもいいんです。それを受け取る人が、どうかを判断すればよいわけで、そこまでコントロールはできないです。こう思ってほしい、って思っても、まったく同じように思ってくれるのは奇跡的なことですからね。それよりも、自分ができることの中でできる限りのことはやるけど、自分の力でなんともできないことについては、変に考えすぎないで、神様にお任せしちゃおう、っていうほうが健康かな、って思うんですよね。他人からどう思われるか、なんていうのは、どんなに悩んでも相手次第である以上、どうしようもできないですよね? でも、自分でできる範囲、たとえば、判りやすい言葉を使うとか、いつも笑顔でいる、とか、自分だけでできることはたくさんあるわけだから、それをやっているだけでよいと思うんですよ。それをやらないで、他人の言葉とか反応だけを気にしてるのって、すごくもったいない気がするんですよね。そう思いません?

--- なんか、哲学的になってきましたね(笑)。そんな、いろんな意図が、この定位センターに含まれてるわけですね?
石川: (笑)そうですね。だから、ヘッドホンで聴いても、ラジカセで聴いても、質感が一緒なんじゃないですかね。昔のアルバム、たとえば「ソウデスカ」とかね、結構左右を広く使ってるんですよ。それと比べると、すごーく違いがわかると思いますよ。

(次のページにつづく)



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