ニューアルバム「かわらぬ波」を語る! 石川秀明ロングインタビュー (2)


--- さて、いよいよ後半ですが、「夏休み」は久々にストレートなバラード、っていう感じですね?
石川: そうですね。これも、ソロのライブでしかやってない曲なんで、あんまり知られてないですよね。夏休みが終わったときの、ちょっと寂しい切ない感じの曲を書きたいな、と思って作ったんですけどね。遊びのつもりが、結構本気で好きなのかも、みたいな。

--- 恋の王道ですね(笑)。この曲、視点としては女の子からの視点ですよね?
石川: 実はそうとは限ってないんですけど、何となくそう感じられるみたいですよね。受け身だからかな。口説くより口説かれる方だから、そうすると女の子のほうが多いからかもしれませんね。でも、海辺でタバコ吸って膝抱えてるわけだから、結構ボーイッシュですよね(笑)。

--- サーフィンとかもガンガンやってそうな感じですよね。
石川: ああ、そうそう。そういう感じ。日焼けとかすごいしてて。いいですよね。すごい好き、そういう子。

--- (笑)なんか別の話になってますけど、そのあとが「かわらぬ波」。海つづきですね?
石川: そうですね。夏はやっぱり海、っていうイメージですからね。今年は海に行けなかったけど。ボディーボードとかやりたいんですよね。僕も山よりは海の方が好きですしね。

--- この曲の最後に「静波」っていう、地名が入ってますよね?
石川: この曲は、もともと「静岡ロングボードクラッシック」っていうサーフィンの老舗の大会が静波であって、その大会が幕をついに閉じるというときに、記念に書いた曲なんですよ。曲を聴いたときに、海のこととか、大会のこととか、思い出してもらえたらなあ、と思ってね。昔ブラバで共演したNATSUMIっていうボーカリストが、今静波に住んでるんですよ。その彼女の結婚式の2次会で歌ったのがきっかけで、イベントに呼んでもらったのがきっかけなんですけど、本当に温かくていい人たちでしたよ。

--- 以前も「Balihigh」でしたっけ? サーフィンのチームとの関わりありましたよね?
石川: そうそう! 世間は狭くてね、その伊良湖のロングボードクラッシックの元は、この静波の大会らしいんですよ。なので、その最後の大会のときも、Balihighのみなさんもいらっしゃってて、本当に懐かしかったです。「伊良湖一番」はそのとき作ったアルバムだし、今回も「かわらぬ波」がタイトル曲だし、ブラバはなにかと「海」に縁がありますね。

--- そういう人との繋がりって面白いですよね?
石川: そうですよね。音楽やってて、一番いいな、と思うのって、その部分かもしれないですよね。バンドとかやってなかったら、そんなサーファーの皆さんと関わることないですしね。もちろん、いろんなところで活動してるミュージシャンしかり、海外のミュージシャンしかりね。最近でも、中田島砂丘の浸食を食い止めようと活動している皆さんとか、浜松の歴史を大事にしようとしている皆さんとか、いろんな世界の方たちと関わりが生まれたんですけど、それも、こうやって音楽やってるおかげですからね。

--- そういう出会いの中で、加藤姉妹との出会いもあるわけですよね? いろんな曲がある中で「風船」を選んだわけは何ですか?
石川: お、上手いですね(笑)。「風船」は、加藤姉妹の曲の中ではすごく和風というか、ちょっと雰囲気が他の曲と違うなあ、と最初聴いたときに思ったんですよね。で、しかもこの曲は、日本人にしかできない曲だな、と。で、家でちょこちょこ弾いたりして遊んでたんですよ。そうしてるうちに、レコーディングの日になって、なんかカバーをやりたいな、と思って、そのときに思いついたのがこの曲だったわけです。

--- ブラバともまた全然違うメロディーですもんね。
石川: 僕にはこういうメロディーはまだ書けないんですよね。蓄積が足りないというか。今までどうしてもアメリカ音楽一辺倒できたから、あまり日本的なメロディーの感性が育ってないんだと思うんです。書けてもロックというか、バンドものですしね。だから、歌うのも難しかったです。

--- 歌い癖みたいなものも違うんですよね?
石川: 節回しがね、どうしても違うから。それにメロディーに対する言葉選びもね、僕が選ぶのと全然違うからね。

--- そんなに大きく違うものなんですか?
石川: 多分みんなが思ってる以上に違うもんだと思いますよ。僕の場合は、メロディーを先に作って、その仮歌を歌っているうちに、ここの言葉は「にー」だな、とか、音優先で言葉を選んでいくから、どうしても自分が歌いやすい言葉を選んでるんだと思うんですよね。そういうプロセスを通らないんで、カバーって難しいんですよ。

--- じゃ、加藤姉妹の曲だから、というわけではなく、カバー全体がそうなんですね?
石川: そうですね。これからいっぱい歌っていくうちに、だんだん歌い方も育ってきて、それに合わせて節回しも変わってきて、ってなるんではないですかね? ハナレグミの「家族の風景」なんかは、まさにそうなった曲ですよ。

--- 長いこと歌ってますもんね?
石川: あの曲がシングルで発売された日に、僕、自分のライブでやりましたからね(笑)。スペースシャワーでビデオクリップが流れてて、それで感動して、ビデオに録画して、コードとって歌ってたんです。だから、浜松の人で、僕が歌ってる方をたくさん聴いてる人も居ますよ(笑)。

--- (笑)自分の曲のように歌ってますよね。
石川: 永積くんにお礼を言わないと(笑)。ま、その分、宣伝にもなってると思いますけどね。

--- そして、最後の曲は「あじさい」ですね。これもアルバムでは初めてですよね?
石川: そうですね。ライブでは結構やってましたけど、形になってなかったんで。一度僕のサークル (早稲田大学 The Naleio)のオムニバスCDに収録されてましたけどね。

--- これも新しく録音したんですか?
石川: 当初は、そのオムニバスに出したマスターをそのまま入れようとしたんですけど、他の曲と音質とか雰囲気があまりにかけ離れていたので、マスタリングしたあとで、この曲だけもう一度録音して、再度全体のマスタリングをしなおしました。だから、何枚かCDをボツにしました(笑)。それに、やっぱり時期が離れてると、声とか歌とかも違うし、アルバム1枚をトータルで考えても、ちょっと浮いてしまうな、と思ったんですよ。結構自分の中で大事にしてる曲だから、浮いてしまうのはかわいそうだしね。

--- もともとは、ASHくんの結婚式のために書いた曲ですよね?
そうそう。ASHの奥さんも、僕は仲良しだったんで、ふたりのために、って感じでね。ちょうど式のときに演奏してたら、奥さんの友達たちがステージ脇のテーブルですごい涙してて、あやうくもらい泣きしそうになりました(笑)。

--- そういうの弱いですもんね。タイトルの「あじさい」っていうのは、何かを象徴してるんですか?
石川: ご存知のとおり、僕らは雨男といわれてましたけど、雨といえば6月。ちょうど結婚式も6月だったしね。で、その頃の花といえば「あじさい」かな、と。タイトルはASHとASHの奥さんがつけてくれたんですよ。で、タイトルがついてから、ギターソロあけのところの歌詞に「あじさいの花も いつもの雨も」っていう言葉を入れたんです。現実、結婚式が始まったとたん、すごい雷雨になって、やっぱり雨との関係も切れないんだなあ、と思いましたね。

--- そういうのって不思議に通じるもんですよね?
石川: たぶん、それはそうであってほしい、と念じてるんだと思うんですよ。信念っていうのは、時間が経つと形になっていくものだと思うんです。ポジティブなことでも、ネガティブなことでも、ずっと思っているとそれが現実になっていく。雨が降るって思ってて、いつも降るんだよな、っていう信念だったら、そういう風になるもんだと思いますよ。

--- なるほどー、それは面白いですねえ。じゃあ、病気になりやすい人っていうのは、いつも病気になることを心配してるから、とも言えるんですか?
石川: そうかもしれませんね。よく判んないけど、感情が伴ってる思考は、現実になるんだと思うんです。いつも「振られるかも」って心配しながらパートナーと付き合ってる人は、必ず別れるでしょ?それは心の状態が、振られるとほっとするからなんですよね。僕はでも、それはそれでいいと思うんですよ。ほっとして、気持ちが落ち着くなら、それがネガティブな事を考えてても、いいと思うんです。ポジティブシンキング自体が、結構辛い、っていう人もたくさん居ると思うしね。だから、自分が一番心地よく居られる気持ちの持ち方を、自分で見つけるといいと思いますけどね。僕はナチュラルシンキングって呼んでますけどね。

--- なるほど。ナチュラルシンキング、いいですね。私もやってみます。じゃ、最後に何かメッセージはありますか?
石川: 5年ぶりのアルバムということで、その間に経験したことがいろいろ詰まったアルバムになったかな、と思います。あと、男の一発録音ということもあり、等身大の僕の音になっていると思いますので、そのあたりもゆるっと楽しんでいただけると嬉しいです。

--- 今日は長い時間ありがとうございました。
石川: こちらこそ。

(聞き手: 宇都宮恭子)



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